僕惚れ③『家族が増えました』
***

「理人?」

 適当にタオルドライしたままの髪からポタリと床に滴が落ちたのを見て、葵咲が慌てて駆け寄ってくる。

 風呂上がり、一人で暮らしている頃はタオルを腰に巻いただけでうろうろしていた理人だけれど、それをすると葵咲が恥ずかしがるので近頃は一応シャツとズボンだけは身につけて出てくるようにしている。

 裸で毎日のように抱き合う仲なのに、いつまで経ってもそういう初々しい反応をしてくれるのが葵咲の魅力だ。

「もう、ちゃんとドライヤーしてっていつも言ってるのに。風邪ひいちゃうよ?」

 言いながら背伸びして髪を拭いてくれようとする葵咲(きさき)が愛しくて、理人(りひと)はソファに腰掛けて、葵咲が拭きやすいように頭を低くする。

 「お願いします」と言うと、「理人の甘えん坊」と返ってくるのも、とろけるように甘い時間だ。

 実際葵咲も満更ではないようで、これは別々に入浴した際の恒例行事みたいになっている。
 一人のとき、理人が少し自堕落(じだらく)な拭き方で風呂を出るのは、こうなるのを期待してのことだ。

 サワサワと頭にタオル越しの葵咲の手の感触を感じながら、理人は幸せを噛み締める。

 理人の目の前には、エプロンを身に付けた葵咲のまろやかな胸があって、彼女が身体を動かすたびにそこが揺れてうっとりするような甘い香りを理人に運んでくる。
 理人がその芳香に誘われるように彼女の胸へ手を伸ばしたら、「邪魔しないの!」と即座に怒られた。

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