僕惚れ③『家族が増えました』
「んっ、り、理人(りひと)っ。待っ、……あっ」

 キスの合間を縫うように葵咲(きさき)が抗議の声を上げるけれど、理人は彼女が何か言おうとするたびに唇を奪ってそれを封じる。

 舌をすり合わせるように葵咲の舌の付け根をこすり、それだけでは足りない、とばかりに上顎(うわあご)の裏を舐め上げる。

 葵咲はそこを(こす)られるのが弱いことを、理人は経験で知っている。
 理人の舌が上顎のくぼみを舐めた途端、葵咲の身体がビクッとはねた。

 それを確認するように、「気持ちいい?」と耳許(みみもと)で囁けば、「んっ」と肯定とも違うとも取れるつぶやきとともに潤んだ瞳で見つめられた。

 葵咲に情欲のスイッチが入ったのを直感的に悟った理人は、すぐさま彼女の膝裏(ひざうら)(すく)い上げてお姫様抱っこをすると、そのまま寝室へとさらう。

 いつもならここで天井の照明は落としてベッドサイドの間接照明だけに切り替えるのだけれど、今日は敢《あ》えて部屋の電気を落とさないままに彼女をベッドに下ろした。

「理人……?」
 半ばトロンとした目で自分を見つめてくる葵咲が凶悪に可愛すぎて、理人は理性を保てる自信がイマイチなくて。

 でも、今日はどうしても確認しなくてはいけない事があるので、それを済ませるまでは、とグッと拳を握って「(おぼ)れるな」と自分に言い聞かせた。
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