僕惚れ③『家族が増えました』
「あ。セレの朝ごはん……」
そこでハッとしたように葵咲がつぶやくのへ、「大丈夫、もうあげといたよ」と理人がこたえる。
「あ、ごっ、ごめんなさいっ」
朝食は大抵いつも葵咲が作っている。
いつも理人の方が葵咲よりも早く家を出るから、何となくそんなふうになってしまっているだけで、別に決まっているわけではない。
「何で謝るの? 今日は僕が先に目覚めたから僕が作っただけだよ? セレのご飯もそう。葵咲は気にすることない。それに――」
葵咲がマグカップを持ち上げている手の袖口から見える鬱血の後に、理人は逆に申し訳ない気持ちになった。
「謝るのは僕のほうだよ、葵咲。いくらキミの望みとはいえ、やりすぎた」
葵咲の前腕部につけた痣にそっと触れると、葵咲がくすぐったそうに身動いだ。
「今日は袖口の締まった服着ないとダメね」
ようやくしっかりと目覚めたらしい葵咲が、クスクスと笑って、「でも、理人に守られてるみたいで嬉しい」とうっとりと溜め息を落とす。
理人は葵咲のそういう不意打ちのような優しさが堪らなく大好きで、愛しい。いつもは自分ばかりが一方的に葵咲に懸想しているのではないかと不安になるのだけれど、定期的に葵咲が理人に対する愛情をちゃんと表に出してくれるから……。だから理人は彼女を閉じ込めずに済んでいる気がする。
(ホントはね、僕は葵咲ちゃんをこの部屋に閉じ込めてしまいたいんだよ)
美味しそうに自分が淹れたコーヒーを飲む葵咲を横目に見ながら、理人は心の中で大きく嘆息する。
葵咲にはいつも笑っていて欲しいと思う反面、その笑顔を自分以外の誰にも見せたくないとか思ってしまう自分が、正直理人は怖くもあって。
(僕は結構危ないやつだ)
そう自覚出来ている間はまだ大丈夫だとも思うので、そう思える自分を見失いたくないと常々思っている。
だが、葵咲に怖い思いをさせた山端逸樹を脅すのは、別に病的なくらい嫉妬深い自分のままでも問題ないだろう。
報復するのは隣人が直人と一緒の時がいい。
理人は葵咲のために朝食を用意しながら、そんなことを考えていた。
そこでハッとしたように葵咲がつぶやくのへ、「大丈夫、もうあげといたよ」と理人がこたえる。
「あ、ごっ、ごめんなさいっ」
朝食は大抵いつも葵咲が作っている。
いつも理人の方が葵咲よりも早く家を出るから、何となくそんなふうになってしまっているだけで、別に決まっているわけではない。
「何で謝るの? 今日は僕が先に目覚めたから僕が作っただけだよ? セレのご飯もそう。葵咲は気にすることない。それに――」
葵咲がマグカップを持ち上げている手の袖口から見える鬱血の後に、理人は逆に申し訳ない気持ちになった。
「謝るのは僕のほうだよ、葵咲。いくらキミの望みとはいえ、やりすぎた」
葵咲の前腕部につけた痣にそっと触れると、葵咲がくすぐったそうに身動いだ。
「今日は袖口の締まった服着ないとダメね」
ようやくしっかりと目覚めたらしい葵咲が、クスクスと笑って、「でも、理人に守られてるみたいで嬉しい」とうっとりと溜め息を落とす。
理人は葵咲のそういう不意打ちのような優しさが堪らなく大好きで、愛しい。いつもは自分ばかりが一方的に葵咲に懸想しているのではないかと不安になるのだけれど、定期的に葵咲が理人に対する愛情をちゃんと表に出してくれるから……。だから理人は彼女を閉じ込めずに済んでいる気がする。
(ホントはね、僕は葵咲ちゃんをこの部屋に閉じ込めてしまいたいんだよ)
美味しそうに自分が淹れたコーヒーを飲む葵咲を横目に見ながら、理人は心の中で大きく嘆息する。
葵咲にはいつも笑っていて欲しいと思う反面、その笑顔を自分以外の誰にも見せたくないとか思ってしまう自分が、正直理人は怖くもあって。
(僕は結構危ないやつだ)
そう自覚出来ている間はまだ大丈夫だとも思うので、そう思える自分を見失いたくないと常々思っている。
だが、葵咲に怖い思いをさせた山端逸樹を脅すのは、別に病的なくらい嫉妬深い自分のままでも問題ないだろう。
報復するのは隣人が直人と一緒の時がいい。
理人は葵咲のために朝食を用意しながら、そんなことを考えていた。