僕惚れ③『家族が増えました』
「ねえ葵咲(きさき)

 でもそれならば、と別のことを考えてしまうのも理人(りひと)なのだ。

「ん?」

 葵咲が、使った調理器具を洗う手を止めて理人を見つめる。

「今日はお風呂、一緒に入りたいな?」

 一緒に寝ても、寝室にセレがいたのでは、彼女を抱くことは敵わない。ならばせめてお風呂でイチャイチャぐらいは許してもらいたい。

 もちろん、昨日の今日なので無理をさせる気はないし、ほんの少し触るだけ。……それで……あわよくば少し触ってもらって……軽く彼女を()かせてあげられたり出来たら……嬉しい。

(って結局それなんだよね、僕)

 自分でも、葵咲に対する底なしの性欲が嫌になる。でも……自分のなかから葵咲に対するそういう気持ちをなくしてしまったら……それはそれで僕じゃないし、とも思ってしまうわけで。

「……ダメ?」

 葵咲からの返事が返ってこないので、寝室から離れて恋人のほうへ歩み寄ると、流し前に立つ彼女の腰を後ろからそっと抱いて耳元で問いかける。

「ダメ……じゃ、ない……」

 ややして、葵咲が耳まで真っ赤にしてそう答えてくれて……理人は嬉しくて堪らなくなる。

「じゃあご飯、早めに食べてゆっくりお風呂、入ろうね」

 泡風呂なんかにするのもいいかもしれないね、と言ってから、いずれ葵咲と結婚して子供が出来たなら、セレ以上にイチャイチャの弊害になるんだろうなぁとか思ってしまった理人である。

 だから今はもうしばらくこのまま。

 出来れば結婚してからも、子供は急がなくてもいいかな、とか……理人はそんなことを考えた。


  END(2019/10/28-2019/12/27)
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