買われた娘は主人のもの

主人の『躾』

 主人が部屋へやってくる。

 昨晩の言いつけ通り床ではなくベッドに座ったまま丸まり震えるエイミは、戸が開く音で顔を上げた。

「…。」

 ほのかに灯る部屋で、口を閉ざしたままの仮面の主人はエイミに近付く。

「っ…!!」

 主人の面の奥の表情は見えない。動けなくなったエイミはそのまま目をつむり身構える。

 そっと頬を撫でられ、思わずビクリと震える。

「…震えてばかりか。主人に、口を利いたらどうだ」

 震えるエイミと主人はしばらく黙ったまま。

「…どうか…お許しください…」

 ようやく口を利くことができた彼女の声は震えていた。

「私に奪われることか?私に無礼を働いていると思うことか?」

 主人はエイミの声を聞いて、彼女をベッドに押し倒した。

「…嫌がる声でもいい、鳴け」


 エイミは変わらず、主人との逢瀬の間泣き続けた。

 買われた境遇ゆえ抵抗も出来ず、否定の言葉も必死に飲み込んだ。

「なぜ声を出さない!?泣いてばかりか!」

 主人は泣くばかりのエイミを強く抱きしめた。

「っ、くぅ…!」

 あまりの力強さに彼女はうめく。

(…私、このまま御主人様に殺されちゃうんだ…)

 思わず顔を大きく歪め、目をつぶった。

「…。」

 至近距離にいた主人は突然、無言のままエイミから身体を離す。
 解放された彼女は何度も大きく息を吸い込んだ。

「っ、はあっはあっ、はあ…」

 その間にも主人は彼女から顔を逸らし、一人身支度を整え直して部屋を出ていく。

 エイミはハッと気付くと主人を追おうと何とか立ち上がり、震える足で戸に向かい開けようとした。
 しかしもうすでに鍵が掛けられているのに気付く。

「っ…!」

 そもそも主人を追いかけ、どうしていたら良かったのか分からない。
 あんなときにどうしたら主人の機嫌を損ねずに済んだのか…

 エイミは床に丸まり泣き続けた。
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