買われた娘は主人のもの

仮面の主人

(私、返せないお金の代わりに売られちゃったんだ…。もうお父さんとお母さんのもとには帰れない…。変わっているという御主人様のこのお屋敷で、私はどうなるんだろう…)

 エイミは震えながら下を向いた。


 先ほどの男は屋敷の者たちに知らせに行ったのか居なくなる。

 見るからに質の良い本の揃った書斎。
 先ほどの男の代わりに恰幅の良い中年の男に取り押さえられた彼女は、そこで主人の前に引き出された。

「…これが買った娘か」

 口の開いていない仮面のせいか、くぐもって聞こえる主人の低い声。
 立ち上がった背は高く、白シャツ姿から分かるスラリとした程よい肉付きの身体。短すぎないその髪は後ろに撫で付けられ、紳士と呼ぶにも相応しい。

 仕草からすればまだ歳若いようだが、くぐもる声と嫌でも感じる威厳のせいでそれが曖昧に感じた。

 エイミはこれから自分の身に起こることを、あまりに少ない経験の限り想像して震えている。

「この娘を磨き、良く調べておけ。そして物置部屋に押し込めろ」

 主人はそれだけを言うと、出て行けというように即座に手をヒラリと外側に振る。

 エイミを取り押さえている大男は無表情のまま主人に頭を下げ、まだ震えるエイミを半ば引き摺るように部屋を出た。
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