買われた娘は主人のもの

主人の見えない気持ち

 身支度を整えられたエイミはまた一人、薄暗い部屋へ。

 もう、どうしたら主人の意に沿うようになるのか、どんなに考えても思いつかない。
 とにかく主人のしたいようにされなければいけないと思った。

(御主人様、昨日は私のほっぺたを触りたかったのかな…)

 そう考え、ふと先ほどのことに思い当たる。

 コリーンは頬にキスがしたいと言い、優しく頬に手を添え口付けた。
 昔、両親が自分にしてくれたように。

 そうなると昨晩の主人も、執事長が朝にしたように自分にキスを…

(…まさか…あの、人嫌いって言われている御主人様が…そんなはず、ないよね…)

 エイミは執事長のことと同時にその考えも振り払おうと、一人首を横に振った。


 主人が入ってくる。

 まっすぐにこちらを見つめ、やって来てすぐにベッドに座ったエイミを強く抱きしめた。
 今日はなんの罰だろう、そう考えた直後、主人は口を開いた。

「…笑え」

「え…??」

 突然何を言われたのか分からない。エイミは呆然と聞き返す。

「笑えと言った。私の前で、笑ってみせろ」

 ただでさえ仮面で表情も見えず、何を考えているのか分からない主人。

 まだ怯えがある状態で笑えるはずはない。
 なんとか主人の意に沿うようにと思っていたエイミでも、それは無理な命令に思えた。

「そ、んな…」

 │狼狽《うろた》えるエイミの頬に、今日もまた主人は手を添える。

(今日こそ叩かれる…!!)

 エイミは身構えたが、主人はそっと頬から手を離しエイミを抱きしめ直した。

「…そんなに嫌か…私に見せるのは…」

 エイミの耳元で、小さく呟く声が聞こえた。

 主人はしばらく黙り込んでいたが、やがてエイミをいつものようにベッドに強く沈めた。
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