買われた娘は主人のもの

憩いのひととき

 次の日も朝から主人は出掛けたという。

 執事長の姿も見えず、コリーンに尋ねれば、誰も勝手には入れない主人の書斎で代理の仕事をしているのだろうと笑った。

 エイミにしてみれば二人とも何を考えているか分からない、見るだけで気を張り続けなければならない相手。

 エイミにとっては二人とも普段あまり姿を見ることがないとはいえ、日中に見るのがバラドだけで済むのはありがたいことだった。


「…コリーン様、他人にキスをしたくなる、というのは、普通のことなのですか…?」

 エイミは夕刻、浴室でコリーンに小声で尋ねる。

「…あら、キスなんて相手を気に入ればするものじゃない?それこそ、飼っているペットにだって、する人はいるそうよ」

 コリーンはそう笑った。

(じゃああの時テイル様は、飼っている子犬だと思って私にしたのね…)

 コリーンの言葉を聞き、昨日の執事長の様子を思い出していたエイミは一人納得した。

「…何よあなた、キスしたい相手なんているの??庭師の爺や?お使いのチビ?…まさか、バラド様…?」

 畳み掛けながら楽しげに返すコリーンにエイミは慌て、濡れた頭のまま首を激しく横に振る。

「キャッ!…お湯がかかるじゃない…!イタズラっ子な子犬ちゃんだこと…!」

「あっ…すみません…」

「お、か、え、しっ…!」

 コリーンはそう言いながら、謝るエイミに湯桶の中の湯をバシャバシャと楽しげに手で掛ける。

「あ…!…コリーンさまぁ…」

 エイミは久しぶりに、困ったようにだったが笑顔が浮かんだ。

「あなたは笑った顔も良いわね…!ふふっ、あなたからのキス、私なら大歓迎だけど」

 コリーンはエイミに、澄ましてウインクを送った。


 そんなやり取りのおかげで、エイミの気持ちはとても軽くなったのだった。
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