買われた娘は主人のもの

主人の誤解

 数日たった夜。
 手を縛られて部屋に戻ったエイミは、いつものようにぬいぐるみを寝かせてしばらく話しかけていたが、主人はまだ来なかった。

「…愛してる、あなたを…」

 寝かせた犬のぬいぐるみの頭を縛られた手で撫でながら呟き、優しく口付けるエイミ。
 エイミにとってはこんな時にしか取れない、たった一人のささやかなひとときだった。

 ところが、

「そうか」

と、突然部屋の隅で声がした。

 主人がしばらくこの様子を見ていたようだが、エイミは主人が部屋に来たことに気付かなかった。

「っ、御主人様…!!」

 エイミは急いで頭を下げるが、主人はエイミのそばまで来ると、エイミの肩を強く掴んだ。

「あっ…!!」
 来たばかりのとき以来の強い力に、エイミは呆然とした。

「そうか、そんなに私ではなく『テイル』が良いか…。私に泣き出すことなく身を任せるようになったのも、全てテイルの為か…!」

 主人が怒っているのだと気付いたのは、そう言われエイミがベッドに押し付けられた時だった。

 何のことなのか分からなかった。
 自分はぬいぐるみに愛していると言い、口付けただけ。
 しかし今、主人はテイルと言ったのではないだろうか?

「そんな…違います…!!」

 あきらかに何かを誤解している。
 首を強く横に振りながら否定するエイミだったが、主人はなおも強く言い放った。

「ならば『テイル』に見ていてもらえ!お前が誰のものなのか…!!」

 寝かせておいたぬいぐるみを、寝そべらせたエイミの頬に強く押し付ける主人。

「ど、どうか…御主人様…!!」

 ぬいぐるみであろうと、自分の『役目』を見られたくなかったエイミは羞恥心と悲しみのあまり泣き出した。
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