買われた娘は主人のもの
 気持ちを落ち着かせたエイミに、始終穏やかに笑っていたコリーンは一つ頷くと少々困った表情で囁くように言った。

「…思い出させてごめんなさいね?…あまり、嫌わないで差し上げて…?」

「え…?」

 エイミは一瞬、コリーンが誰のことを言っているのか気付かなかったが、すぐに主人のことだと分かった。

 彼はこの屋敷の主人。
 顔も隠し、物を言わない彼でも、自分は従わなければならない。それが買われたエイミの宿命だった。

 主人の命があれば、自分はまた相手をさせられる…

 コリーンはきっと、これ以上彼を嫌えばエイミが辛くなると思ったのだろう。

「…はい、コリーン様…」

 エイミの返事にコリーンは何も言わず困ったように笑い、

「おやすみなさい、エイミ…」

 エイミの頬を撫でて挨拶をする。

「はい、おやすみなさいコリーン様」

 エイミが返事をするとコリーンは頷き、ゆっくりと部屋を出ていった。


「…御主人様…」

 突然主人の命で買われた自分。
 主人が何のためにテイルに命令をしてまで自分を買ったのかも、本当のところ分かっていない。

「…寝よう…」

 エイミは全てを振り切るように、ぬいぐるみを抱き眠りに就いた。

 そしてその晩。
 テイルも主人も、そしてコリーンも、エイミのいる部屋にやってくることはなかった。
< 42 / 67 >

この作品をシェア

pagetop