買われた娘は主人のもの

朝の訪問

 朝。
 いつものようにコリーンとバラドがやってきて、いつものようなやり取りの後にコリーンはエイミの食事を取りに行く。

 しかしその後、今日は大きく違った。

 ノックもなく突然戸が開かれそこにいたのは、今まで一度たりとも朝に姿を現すことの無かった主人だった。

 食事を持ったコリーンはあとから入ってくると、さすがに一瞬だけ驚いた表情に変わる。

「…!」

 エイミは顔をこわばらせ無意識に、そばに来てくれたコリーンの後ろへ数歩後ずさった。

「…御主人様、ご機嫌麗しゅう」

 早朝に主人の食事を運び挨拶を済ましていたコリーンはすぐに澄まし顔を作り、メイド服の端をつまんでそう頭を下げる。
 エイミも急いで頭を下げ、

「おはようございます、御主人様…」

そう続いた。

 主人は気分を害した様子もなく、いつも通りの表情も見えない声で言った。

「…娘は本日、私のそばで食事だ。準備を」

「…!」

 今日もテイルが来てくれるとばかり思っていたエイミは思わず息を呑む。

 ぬいぐるみを撫で、テイルの膝の上で食事をする朝のひとときはエイミの中で大切な日課になっていた。

 なるべくなら接したくない主人。
 しかも今まで日中に顔を見に来ることなど一度もなかった主人が、一体どういう風の吹き回しなのかエイミには分からない。

「…御主人様」

 沈黙の中、発言したのはコリーンだった。

「…何か、この娘に不手際がありましたでしょうか?躾がなっていなかったとの事でしたら、このわたくしに罰を。わたくしはこの『子犬』の世話係ですから」

 凛とした態度で言い放つコリーン。エイミは何も言えずに固まってしまった。

 エイミには、コリーンが主人やバラドの前では自分をそのような扱いにしていることは分かっていた。
 それでもまさかコリーンが自分を前に、主人に向かいハッキリと言うとは思わなかったからだった。

「っ…」

 今度息を呑んだのは主人の方。
 少々下を向き、目を閉じている。
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