買われた娘は主人のもの

テイルへの想い

 コリーンとともに割り振られた部屋を掃除し始めたエイミだったが、心につかえていた思いをとうとうコリーンに打ち明けた。

「…テイル様、いらっしゃいませんでした…」

 エイミのその言葉にコリーンはこちらに向き直る。そしていつになく真面目な表情をエイミに向けた。

「…エイミは、テイル様が好きなのね…?」

「はい…!優しい方です…少し変わった方みたいですが、私を気にかけて下さっているのがよく分かりました…」

 エイミは熱に浮かされたように顔をほんのり赤らめてそう答えた。

「…エイミは、あの方の全てを好きになることが出来るかしら…?」

 コリーンは真剣な表情でエイミを見つめ尋ねる。

 全て。
 テイルのあらゆる面を、という意味だろう。

 自分はテイルの全てを知っているだろうか?

 朝や日中に自分のもとに来て様子を見ていること。
 時々主人に付いて出掛ける『らしい』こと。

 テイルのことでエイミの知っていることは、たったそれだけだった。
 それでもテイルが自分に優しくしてくれたこと、気にかけてくれたことは変わらない。

 前にテイルに言われた言葉を思い出す。

「…テイル様は、前に私が欲しいとおっしゃっいました…。御主人様のようにして欲しいのかもしれません。でもテイル様は、私の身体だけが欲しいわけじゃない、と…」

 聞いた時、エイミは本当に悲しくなった。
 それでもエイミからすれば、主人にどんなに優しくされようと、今はコリーンとテイルだけが屋敷での自分の信じられる相手。

 エイミはコリーンを真っ直ぐに見つめた。

「私、テイル様がお望みなら、テイル様にもお役目を果たします…!テイル様のためなら私、受け入れます…!」

 それを聞いたコリーンは悲しげに下を向き、うなだれ首を横に振った。

「…テイル様は、もうエイミの考えているようなことは望んでいらっしゃらないわ…。なぜあの方も、エイミに早く教えてあげなかったの…?もう、遅いかもしれない…」
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