買われた娘は主人のもの
 エイミがバスルームに入る頃、バラドがコリーンに声を掛ける。

「テイルが娘と話すと言っている。連れて行くぞ」

 彼はエイミの手首を掴む。

 バラドに連れられたエイミが振り返ると、コリーンは心配そうな表情でこちらを見ていた。


 いつもの部屋に戻ると、バラドはエイミを壁越しに追いやった。

「っ…!」

 エイミは怯えたが、バラドは珍しくじっと自分を見て告げる。

「テイルは駄目だ。諦めろ」

「…え…」

 バラドに何を言われたのかが分からない。
 しかし怯えた掠れ声でエイミは返す。

「…テイル様を、諦める…?」

「そうだ。もう遅い、お前は受け入れられないはずだ」

 受け入れられない、というのは、テイルに愛する者として受け入れてはもらえない、という意味だろうか?

「…わ、分かっています…!!」

 エイミは涙をこらえながらバラドに向かった。

「テイル様は、私には不相応です…!で、でも…私の、お屋敷での生活を乗り越えて来られたのは…コリーン様と、テイル様のおかげなんです…!!私を気にかけて下さったテイル様…私の、テイル様への想いを忘れるなんて、出来ません…!!」

 いつも無表情なバラドの表情が一瞬歪んだ気がした。

「…何も知らずに…。お前は後悔することになるだろう。そしてあの方もだ、もう遅い」

 バラドは出ていった。部屋には鍵をかけて。

「…。」

 あの方。
 テイルのことだろうか?それともテイルを屋敷に置く主人のことだろうか?

 テイルが自分を受け入れてくれないというなら、『もう遅い』とはどういう意味なのか。

 エイミがどんなに考えても、何も答えは見つからなかった。
< 54 / 67 >

この作品をシェア

pagetop