買われた娘は主人のもの

執事長の男

 エイミはいっそう居心地が悪くなり、そのまま部屋の隅で下を向いて立ち尽くした。
 チラリと見ると、バラドは相変わらず無表情のまま、目をつむり微動だにしない。

 だがきっと下手に動けばこの男は自分をまた取り押さえるだろう。抵抗すれば娘を殺せと主人から言われているかもしれない。

 エイミは震え始めた自分の足を必死に立たせ、少しでも気を張らずに済むあのコリーンが戻ってくるのを待った。


「…テイル様…お早いお着きで…」

 部屋の外に聞こえたコリーンの少し戸惑う声のあと、ゆっくりと戸が開いた。

 皿を乗せたトレーを持つコリーン。
 隣にいたのは、きっかりとした燕尾服に身を包む、エイミを買ったあの長身の男だった。
 彼がこの部屋に来る予定だった人物だろう。

 燕尾服の男は部屋に入るとすぐに、エイミを見て戸惑いの表情を浮かべる。

「テイル様…本当に直々に取り調べをなさるのですか??」

 コリーンは少々大げさに驚く。

「…私が買ってきた娘だ」

 そう答え、なぜか困惑気味に顔をしかめてエイミを見る『テイル』と言われた男。
 その後ろで、コリーンが微かに笑った。

 入り口側の壁でエイミを見張っていたバラドが、エイミに向かって告げる。

「屋敷の者を取り仕切る、執事長のテイル様だ」

 エイミは突然のことに慌て、すぐに深く頭を下げて言った。

「て、テイル様…私を…買って頂いて、どうもありがとうございます…」
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