極上の花嫁~石油王は揺るぎない愛を注ぐ~
その後、マリアに観光に誘われたもののそれを断って部屋にこもり、永斗さんの情報を頭に叩き込むことに専念した。

パーティで私が失態を犯せば多くの人を路頭に迷わせることになる。

責任は重大だ。

永斗さんのためにもマリアの為にも、今できることを精いっぱいやるしかない。

「ハァ……、寒っ」

それにしても、今日は一段と冷える。

思わず両腕を手のひらでこすった。

家の中は地下室にあるボイラールームからパイプを通して各部屋に熱を伝えてるセントラル・ヒーティングにより常に暖房が付いていて温かいはずなのに。

もしかして故障でもした……?

永斗さんに買ってもらったカーディガンに腕を通す。

「――沙羅様、すみません」

時計の針が11時を回った時、マリアが狼狽えながら私の部屋へやってきた。

「どうしたの、マリア。何かあったの?」

「ぎっくり腰になってしまって動けないと母から連絡がありました。もうすぐミラをプリスクールに迎えに行く時間なのに……」

マリアが仕事をしている間、2歳のミラちゃんはマリアのお母さんが面倒をみてくれている。

ミラちゃんは週に一回2時間だけ教会のプリスクールへ通っていて、今日がその日のようだ。

「大変……!ミラちゃんを教会まで迎えに行かないと。それと、お母さんも病院へ連れて行ってあげたほうがいいわ」

叔母がぎっくり腰になったときもトイレ以外ほぼ寝たきりの状態で痛みにのたうち回っていた。

「あ……、でも、ミラちゃんを連れて病院へ行くのは大変だよね……。あっ――そうだ!」

そのとき、ある考えが頭に浮かんだ。

「教会まではここからどのぐらいで着くの?」

「車で5分ほどです」

「だったら、ミラちゃんを迎えに行ったあとここへ連れてきてもらえない?私がミラちゃんと一緒に遊んで待っているから」

「でも、それでは沙羅様にご迷惑をおかけしてしまうことになります」

「永斗さんもまだ帰ってこないわ。大丈夫。困ったときはお互い様でしょ?」

「沙羅様……ありがとうございます」

マリアは涙ぐみながら頭を下げると、部屋を飛び出して行った。
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