極上の花嫁~石油王は揺るぎない愛を注ぐ~
車を降りるとニューヨークの一等地に建つ60階建ての高層ビルに足を踏み入れた。

「え、永斗様……!!今日はどのようなご用件でしょうか?」

エレベーターを降りた俺に気付いた受付女性が慌てて飛んでくる。

「今日は海に用があってきただけだ。気にしないでくれ」

「あっ、でも、あの海様から誰も通さないようにと伝言を預かっておりまして……」

「俺が君の制止を聞かなかったと海には話しておく」

「ですが……」

俺はフロアの一番奥の社長室へ向かった。

その間、海の下で働く社員たちの様子を横目に見る。

就業時間だというのに、おしゃべりに花を咲かせている人間やパソコンをいじるようなそぶりを見せながらうたたねしている人間もいた。

だらけすぎている環境に呆れと怒りを覚えながら社長室の前に辿り着く。

「え、永斗様……、本当に困ります!!だって今は……」

女性の制止を振り切ってノックもせず怒りに任せて扉を開けた。

すると、視界には窓枠に女性を座らせ唇を重ね合わせている海の姿が飛び込んできた。

「お前は会社で何をやっているんだ」

女性は慌てて窓枠から足を下ろしてははだけていた胸元を整えると、困惑したように部屋を飛び出して行った。

「入るならノックぐらいしてくれる?ようやく口説き落としたって言うのに努力が無駄の泡になっちゃたよ」

海は悪びれる様子もなく言う。

「永斗が僕の会社に来るなんて久しぶりだね。何の用?」

「自分が一番よく分かっているだろう。沙羅のことで話がある」

「沙羅?なんのこと?」

海は俺を挑発するかのように唇をクイッと持ち上げて意地悪く笑った。

「正直に答えろ。沙羅が俺の前から突然姿を消した。沙羅に何か余計なことを吹き込んだんだろう?」

「まさか。そんなことしないよ」

「お前が沙羅の存在を疎ましく思っていたのは知っている。俺が結婚して父から会長職を譲渡されるのを恐れていたんだろう?」

「別に恐れてなんていないよ」

「……そうか。だが、残念だったな。お前はこれからすべてを失うことになる」

「どういう意味だ……?」

海の眉がピクリと反応する。

「今日の午後、緊急の取締役会が開かれることになった。今年に入ってからの利益が目に見えて下がっていると取締役たちから内密に相談を受けていてな。俺はお前に何度も忠告したはずだ。CEOとして利益を上げる為に経営戦略を打ち立てろと。それを聞かなかったのはお前だ」

「取締役会だと……?俺を解任しようっていうのか!?だが俺はCEOだ!この会社のトップだぞ!」

必死に虚栄を保とうとしているものの、顔は青かった。

「社長とは違いCEOは取締役会によって任命される。解任も取締役会が行う。役員たちは海を任期途中で解任する道を選んだ。それはもう覆らない」

「なっ……!」

「お前はCEO、俺は社長。その違いが分かるか?すべては今までのお前の行いのせいだ」

「そんな……。バカな……!!」

「あと数時間でお前はこの会社のCEOではなくなる。そして、ロバートグループの人間でもなくなる」

ワナワナと唇を震わせる海に俺は吐き捨てるように言った。
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