・LOVER—いつもあなたの腕の中—
「隙間時間で少しでも趣味を楽しむために、マネージャーさんの目を盗んで逃走してたのね」

「んー、まぁね」


 少し歯切れが良くないのは、バツが悪いから? 私のような凡人に指摘されて、ちょっと耳が痛いのかな。こりゃ、気分を変えないとまずいよね?


「えっと、裕隆さん……」


 本名を呼ばれたら少し気分もよくなるかな。なんて思い西田さんの名前を呼んでみる。しかし、思い切って呼び慣れない名前を口にした私は西田さんから冷たく鋭い視線を向けられた。が、それは一瞬の出来事で。すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。


「ごめん、最近本名で呼ばれないから聞き慣れてなくて。出来ればリュウにしてくれるかな」

「う、うん。分かった」


 何だったんだろう、今の。本名で呼ばれることが嫌なのかな。
 長い間、西田リュウとして生活しているから? 聞き慣れているのが、こっちだから?
 本名で呼ばれちゃうと、西田リュウとしてのイメージが崩れるとか?


 急に怒られてしまったような気がして、ショボンと手元の珈琲カップを弄っていると。横から顔を覗き込み満面の笑みを浮かべた西田さんが私を諭した。


「優羽が人前でも、うっかり俺を本名で呼んだりしたらマズいでしょ?」

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