甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「結羽…俺の目を見て、もう1度言って。どうして欲しいか」
横に座った湊さんの顔が近づき、熱く揺らぐ瞳が私を見つめた。
「もう1度…私を…愛して下さい」
愛おしく私の唇を撫でる指に、もう心臓が、バクバクと、うるさいくらいに踊ってる。
「お望み通りに」
湊さんは優しく微笑み、唇が触れ合う。

初めての時は分からなかった。
優しく包み込まれ、湊さんの温もりを肌で感じることが、こんなに幸せだなんて…
湊さんと繋がり、蕩けるような愛を受け、私は更に、湊さんに染まっていった。
あの時は、見知らぬ素敵な男性と、初めての甘い時間に酔いしれた。
でも今日は、心奪われた湊さんとの、秘密の愛に溺れていく。

朝になり、目が覚めると、湊さんは私を包み込むように、静かに寝ていた。
あの夜のことの見返りでも、例え一時の遊び心でも、私は湊さんを拒めない。
辛い恋だとしても、溺れゆく自分を止められないほど、惹かれていた。
湊さんの寝顔、ずっと見ることが出来たら、どれだけ幸せなんだろう…
湊さんの腕を静かに離そうとした時、胸に引き寄せられた。
「また、勝手に帰ろうとしてる」
顔を上げると、湊さんが起きていた。
「あの日、目が覚めた時、寂しかったんだから」
私の頭を撫でて、抱きしめていた。
「もう、会うこともないと思ってましたから」
「俺達は出逢う運命だった、ってことだね」
抱きしめられて埋まる胸の鼓動は、私の鼓動とリンクしていた。
「あぁ…このまま結羽と居たいけど、今日、仕事なんだ。出張もあるし、結羽ともしばらく会えないし」
「じゃあ、帰らないと。私1人で帰りますから」
「家まで送るよ」
「それじゃあ、遠回りになるじゃないですか」
「いいんだ。少しでも一緒にいたい」
湊さんは私を抱きしめた後、そっと口づけをした。
「じゃあ、帰ろうか」
「あの…宿泊代、今日はお仕事じゃないから、私も払います」
財布のお金で足りるだろうか…
きっと足りない。いや、絶対足りない。
「何言ってるの?ここ、西条HDのホテルだよ」
「えっ!」
そっかぁ、あの時、仕事ってそういうことか…
あっ、マスター!
そりゃ、自信もって、保証するって言い切れる訳だよ。
「ふっ、ほんと可愛いね。そういうとこも好きだよ」
朝日を受けて爽やかに微笑む湊さんは、眩しかった。
初めて知る、愛する人の胸に抱かれ、迎える朝。
このまま時が止まればいいのに…
よく言う台詞の意味が、ようやく分かった気がする。
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