甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
【深まる愛に溺れゆく】
湊さんは出張が重なり、Webで会議の参加が続いた。
「会えなくて寂しいよ」
たまにかかってくる湊さんの電話に、キュンとしながらも、寂しさが募る。

お父さんは検査の結果、異常は見つからず、出勤出来るようになった。
佐々倉フーズでは、食材にこだわっていて、取引先の巡回も怠らない。
お父さんは、業者の人達も大切にしていた。
「木島くん、結羽と一緒に来てくれるかな」
太陽の日差しが暑く感じる月曜日の朝、お父さんに木島さんと社長室に来るよう、呼ばれた。
「実は、2人に頼みがあってね。水曜日に、私が行く予定だった、大分にある大畠さんの所に行って、リニューアルした工場の視察に行って欲しいんだ」
大畠さんは、お父さんが会社を起ち上げる時から、食材の提供と、今では冷凍食品の業務提供をしている、大切な取引先だった。
子供の頃、夏休みに旅行も兼ねて、何度か連れて行ってもらったことがある。
「私も、ですか?」
「あぁ、大畠さんにはお詫びして、木島くんと結羽が行くことを伝えている。別で2社ほど、挨拶してきて欲しいんだ。1泊2日になるから、そのつもりでスケジュール組んでおいてくれ」
「お父さん、ちょっと」
「じゃあ頼んだぞ」
それ以上何も言うなよ、とチラッと私の方を見て圧をかけ、席を外した。
何を勝手に決めてるのよ!
「佐々倉さん、手配は僕がしておくよ。そうだな、資料の準備お願い出来るかな。後でメールで送るよ」
淡々と話する木島さんは、特に気にして無さそうだった。
「分かりました。お願いします」
仕事だ、そう割り切ろう。
ふと、湊さんの顔がよぎった。
木島さんと一緒に行くって言ったら、嫉妬、してくれるかな。

火曜日の夜、出張の準備をしていると、湊さんから電話がかかってきた。
「結羽、明日、久々にそっちの会議に顔出すよ。会えるのが楽しみだね」
えっ?明日に限って…
「あの…明日出張で、大分に行くんです」
「出張?結羽も出張に行くことあるんだ」
「初めてなんですけど、父の代わりに、昔からお世話になってる方の工場に行って来ます。泊まりになるので、また連絡しますね」
「そう、気をつけてね。でも1人で行くなんて心配だなぁ。俺、付いて行こうか?」
「えぇーっと…1人ではないので、大丈夫です」
「そうなの…もしかして、木島さんと?」
「は、はい」
明日会議に来るなら、嘘ついてもバレてしまう。
「そう。それなら迷子にならないし、安心だね」
あっさりとした湊さんからの返事に、少し戸惑った。
「行かないで」そんな言葉を期待してしまった。
「そう、ですね…」
「じゃあ、気をつけてね」
電話を切り、寂しさを感じながら、明日の準備を終わらせた。
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