甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「これは木島さん、それに結羽ちゃんも。久しぶりだね」
「ご無沙汰してます。大畠さん、今日は宜しくお願いします」
「2人で来るって聞いて、そろそろ結婚が決まったのかと思ってさ」
「えっ?」
木島さんがびっくりするように、返事をしていた。
「違うのか。佐々倉社長が、木島さんが婿に来てくれたらって、いつも言ってたから、ついに結婚するのかと思ったぞ。はははっ!どうぞこちらへ」
歩き出した大畠さんの後ろを、私達は付いて行った。
気になって木島さんを見ると、顔を赤くして俯いていた。
お父さんは、何てこと影で言ってるのよ!
とにかく、仕事!仕事に集中しないと。

無事1日目の仕事は終わり、大畠さん達と夕食を食べ終わった帰りに、
「佐々倉さん、大切な話があるんだけど、今から少し話せる?」
大切な話。何だろう。
お父さんからも大畠さんからも、2人の結婚の話が出た後で、大切な話って。
2人きりの2日間、とてもじゃないけど、平常心でいられない。
「あの、ちょっと疲れてしまって、出張から帰ってからでもいいですか?」
「あぁ、ごめん、大丈夫だよ。今日はゆっくり休んでね」
エレベータに乗り、無言に緊張感が走った。
先に部屋の階についた木島さんが降りる。
「じゃあ、また明日」
エレベータが閉まると、力が抜け、部屋に戻ると、そのままベッドに飛び込んだ。
もう、お父さんのバカ!
ホテルの天井を見て思い浮かぶのは、湊さんだ。
そうだ、メッセージ来てないかな…
画面には何も通知が無かった。
いつもは心配してくれるのに…
もしかして、湊さんがメッセージ出来ない状況?
他の女性と一緒だったりして…
あぁーっ!余計なこと考えずにお風呂に入って寝てしまおう。

寝不足だぁ…
チェックアウトして、ロビーのソファで木島さんを待っていた。
昨日の夜は、あれからずっと、湊さんと他の女性との妄想が、頭の中でドラマ化してしまい、涙は出てくるわで寝れなかった。
「佐々倉さん、お待たせ。大丈夫?何だか凄く疲れてるね」
「おはようございます。初めての出張で、緊張して寝れなかったので」
「そのうち慣れるよ。今日は午前中だけだから、あと少し頑張って」
木島さんは落ち着いていて、優しい。
振り向いたその背中は、細身の体にも頼もしさを感じる。
それでも、やっぱりときめきは感じなかった。
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