甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「ここ、いいですか?」
「は、はいっ、どうぞ」
他に席はあるに…
そう思いながら、顔を見ずに返事をした。
「お1人ですか?」
「えっ、はい」
戸惑いながら、声を掛けた人の方を見た。
えっ、うそっ!
白のシャツに黒のパンツとラフな服装。
その人は、庭で見かけた男性だ。
まさか、こんな所でまた逢うなんて…
「よくここには来られるんですか?」
「いえ、今日が初めてです」
「そうでしたか。私はよく仕事で来るんですが、いつも1人だったので」
間近で微笑みかけられると、息が一瞬出来なくなるくらい、ときめいた。
「あなたのような素敵な方の横で飲めるなんて、とてもラッキーですよ」
甘い言葉に、胸がドキドキする。
耳に届く声は優しく響き、話し方も紳士的
で、嫌な感じはしない。
それにしても、さっきは遠目で分からなかったけど…
二重ですっきりとした目元。
まつげが長く、鼻筋が通って、それでいて品性がある。
近くで見ると、纏う空気が、今まで出逢ったことがない、凄く素敵な人だ。
「ここの庭の桜は綺麗でしょ?見ましたか?」
「はい。桜吹雪に包まれて、見上げる光景が綺麗でした」
あの風景が脳裏にちらつき、胸が痛む。
「そうだね。本当に綺麗だったよ」
そう言って、男性はウィスキーを注文していた。
「せっかくだし、下の名前だけ教えてよ。私は、湊(みなと)、29歳です」
「えっと…」
初めて会って間もない人に、名前を言うのは…
どうしよう…
「あぁ、そんなに警戒しなくても、怪しい者じゃないから。ねぇ?マスター」
「私はよく存じ上げていますので、保証しますよ。お客様」
マスターは優しく微笑み、胸に手をあてながら頷いていた。
一流のホテルのマスターだから、嘘はつかないよね。
「えぇっと…私、結羽です」
「結羽さんか、可愛いね」
そんな言葉だけでも、こんな素敵な人に見つめられて言われると、ドキドキする。
木島さんの言葉にも、こんなドキドキする日が来るのかな…
うーん、想像出来ない!
「今日はゆっくり花見でも行きたかったのに、1日仕事で、最後に結羽さんと一緒に飲めて嬉しいよ。ん?結羽さん、どうしたの?」
「えっ、あっ、すみません。私も、落ち込んでいたので、湊さんとご一緒できて、嬉しいです」
普段なら言わない言葉も、お酒の力で、そんな言葉が出てきた。
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