甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
【心奪われ溺れ始める】
1人残されたカフェで、この先のことを考えながら、庭を眺めていた。
「桜の花びらのように、私も風に吹かれて飛んで行きたい」
そう思っていた時、2人の男性が歩いているのが見えた。
1人はお父さんくらいの年齢かなぁ。
もう1人の男性は…
背が高く、端正な顔立ちで濃紺のスーツを着た男性は、落ちてくる桜の花びらを手で受け止めていた。
目に映るその情景は、まるで映画のワンシーンみたい。
思わずその姿に目を奪われた。
あんな人が結婚相手なら、私は受け入れることができたのかな。

気持ちのやり場もなく、家に帰る気分にもなれない。
私はその足でフロントに行き、空き室がないか確かめた。
「本日ですね。お待ちください…はい、ございます」
その言葉を聞いて、直ぐに予約を入れた。
あぁ、でも着替えを持って来てないや。
近くに買い物に行って揃えよう。
そうだ、さっきの人、まだいるかなぁ。
私は、さっき見かけた男性が、まだ居るかもしれない、そう思って庭に行ってみた。
でも、目的の人はもう居なかった。
残念…素敵な人だったのになぁ。
見上げると、桜の花びらが一面舞っていた。
わぁ、綺麗…
桜の花びらに包まれるこの空間。
とても神秘的だぁ。
風が吹き、髪がなびくのを手で抑え、更に舞う淡いピンク色した花びらを見ると、色々な葛藤で、悲しみが込み上げる。
佐々倉を守ってきた、お父さんとお母さんの姿が思い浮かぶ。
それを守っていくことは、私1人では到底難しい。
木島さんならお父さんの代わりに、佐々倉を守っていけるのは、私でも分かる。
でも、普通に好きな人に、ときめいてみたい。
悩んだり、クリスマスや誕生日を一緒にお祝いしたり。
そんなこと何も出来ずに、好きでもない人と結婚だなんて…
あぁ、誰か素敵な人が連れ去ってくれたらいいのに…
そう思うと、悲しくて涙が出そうだった。

夜の食事も終わり、1人部屋に居ても、この先のことを考えるばかり。
そうだ、ホテルにあるラウンジへ行こう。
「夜景、綺麗…」
中に入ると、正面に夜景一面が広がっていた。
薄暗く、高級感ある店内は、現実を忘れさせてくれる。
カウンターに座って、1人で飲むカクテルは、何故今まで経験しなかったんだろうと思うくらい、素敵な時間だった。
「好きな人と来たら、もっと素敵だろうなぁ…」
そう思いながら、お代わりの飲み物を注文して、目の前に出された綺麗なピンク色のカクテルを見つめていた。
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