甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
車で向かったのは、「Four Life Island」
ライフスタイルに合わせた宿泊施設に、周りに大型ショッピングモールが出来たりと、一つの街のようになっていた。

「本当に、あんな妄想の世界が、実現出来るんですか?」
私の疑問は、裏切られるくらいに、宿泊施設は別世界の空間を味わえた。
「予算オーバーでしたけど、巻き返せますよ」
孝さんは、湊さんが妥協せずに造り上げようという意向を実現する為に、頭を抱えながら色々と工面したり、調整に走り回っていた。
そんな皆の思いが詰まった施設に、胸がいっぱいになる。

ロビーを通り過ぎ、大庭園は四季折々な風景を楽しめるようになっている。
映画の撮影にも使われたことがあるくらいだ。

「西条専務!」
声を掛けてくれたのは、「田所邸」の女将、田所さん。
「田所さん、お久しぶりです。ご主人は?」
「今、次のお客様がお越しになる前にと、部屋の庭を手入れしています」
「そうでしたか。また後でご挨拶します」
「奥様とお二人ですね。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
田所さんとご主人は、住み込みで働いている。
休館していた旅館は、あの後、専門家が建物の安全性を調べたら、かなり修繕が必要で、時間も費用も掛かるからと、結局手放す決心をした。
「それなら、専属の庭師としてお願いしたい」
その要望に、女将とご主人が同意してくれて、住み込みで管理をお願いし、今や看板女将として切り盛りしてくれている。
そして、庭園は全国でもトップクラスの評価を得ている。
縁の繋がりって、ほんと不思議…
偶然が幸せを呼ぶ。
湊さんと私も…

完成した時に来たけど、実際に部屋に泊まるのは初めて。
オープンしてからずっと人気は続き、なかなか予約が取れないほどになっている。

私と湊さんは、静かな部屋に、小さな庭がある部屋を選んだ。
「周りはあんなに賑やかなのに、川のせせらぎと鳥のさえずりしか聞こえないなんて、素敵ですよね」
この部屋は、田所邸をモデルに造られていた。
「心が洗われるね」
2人でしばらく、その空間を味わっていた。
料理も美味しく、お風呂は露天風呂風に造られている。
「大変でしたけど、努力が報われて嬉しいですね」
「あれから、あっという間だったけど、結羽と結婚して、悟まで産まれた。俺は最高の時間を過ごしているよ」
「それは私もです」
2人で湯船に入り、幸せを噛み締めた。
「湊さん、この間孝さんに、城重グループに取られたあの企画の宿泊施設、初めは家族連れなどで賑わったみたいですけど、今は低迷してるって聞きました。どうしてですか?」
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