僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
約束を果たしに……
葵咲(きさき)、この日曜日、ついて来てもらいたいところがあるんだけど……何か予定ある?」


 あちらから買って帰った土産(みやげ)類諸々、うちの実家と葵咲ちゃんの実家には帰って来た翌日の夕刻、すぐに渡しに行ってきた。

 予め予定を組んでいた葵咲ちゃんはともかく、急遽出立(しゅったつ)を決めて何も言わずに彼女を追いかけた僕は、当然だけど家の方には何も言っていなくて。


 獺祭(だっさい)と、葵咲ちゃんが選んだあちらの銘菓を手土産に久々に顔を見せたら、母親にめちゃくちゃ驚かれてしまった。

「ちょっと理人(りひと)! 貴方いつの間にあんな本州の端っこまで行ってたの!」

 そりゃそうだ。

「本当一人息子だっていうのに薄情なんだから」

 言って「息子って本当可愛げないのよ〜。葵咲ちゃんに早くうちの娘になって欲しいわ!」と彼女の手を掴む。

 うちの母は娘が欲しくて堪らないんだから仕方ない。

「あ、でも理人に葵咲ちゃんはもったいない気もするのよね。この子ってば気が利かないし見栄っ張りだし」

 とか……、いっそ口、ふさいでやろうか?

 グッとこぶしを握って怒りに震える僕を、葵咲ちゃんが小声でなだめる。

「理人も悪いのよ。お母さまにまめに連絡取らないから」

 まぁその通りだから何も言えないんだけどね。

 今日みたいに何か用でもない限り親に連絡することなんてないし、ましてや実家に寄るとか近くに住んでいてもほぼ皆無だ。
 いや、逆に近過ぎるからいつでも行けるって思ってしまって疎遠になっているというか。
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