僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

こだわるキミと、譲れない僕

 寒いから図書館で待っていたら?と言ったのに、葵咲(きさき)ちゃんは何故か待ち合わせにこだわった。

「一緒に住んでいたら待ち合わせしてデートとかないでしょう? たまにはそういうのもいいじゃない?」
 だったら、と喫茶店を待ち合わせ場所に指定しようとしたのに、それも断られて。

「外でね、待っていたいの」
 寒さに身体を震わせながら、恋人の到着を今か今かと待つ感じがいいのだと葵咲ちゃんは笑った。

(い、言いたいことは分からないではないけどっ!)

 僕は葵咲ちゃんがどこかの街角で、寒さに震えて僕を待ってるとか、耐えられないんだけど!?
 しかも僕が仕事を終えて身支度を整えて駆けつけると……どう足掻いても二十時前後になるわけで。

 冬の日暮れは早い。
 二十時なんて真っ暗じゃないかっ。
 そんな時間に葵咲ちゃんを一人、外になんて置いておけるはずがない。

 そこは僕だって譲れないよ?と彼女を睨んだら、「じゃあ、図書館前に二十時は?」と聞かれた。
 いや、図書館前(そこ)もダメだ。だってうちの図書館は離れになってる分、本館の方に比べて圧倒的に人通りが少ないじゃないか。閉館後ともなるとそれは尚更で。

 葵咲ちゃんと付き合い始める前、彼女が夜に、僕を待って図書館前にいると聞いた時、どれだけ心配したことか。

 僕は少し考えて、本館の入り口前なら、と答えた。
 図書館からは結構離れてしまうけど、図書館前(僕の職場前)に居たからって、僕が彼女の危機を察知できなければ意味がない。うちの図書館のエントランスは最上階――七階――にあるのだから、どう頑張ったって、下での出来事には気付きにくいじゃないか。

 何かあったら本館(建物)に入ってすぐの、事務室に駆け込むという約束をして……僕は渋々葵咲ちゃんからの提案を飲んだ。

「待ち合わせ、楽しみだね」
 と微笑む葵咲ちゃんに、僕は今日は何が何でもさっさと仕事を切り上げて、待ち合わせ時間より前に彼女を待てるようにしよう、と心に誓った。
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