僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「鞄?」
 聞き返すと葵咲(きさき)ちゃんが小さくうなずくから、僕は洋間に置き去りになっている彼女の鞄を持って戻ってくる。

「なか、にね……診、断書」
 言われて、「開けていい?」と聞くと「ん……」と返事があって。僕は彼女に見える位置に移動して鞄を開ける。

 と、中に薄青色の封筒が見えた。
 これ、見覚えがある。鳥飼(とりかい)小児科医院のだ。
 封筒の下部に住所などが印字されたそれを開けると、中に僕がもらったのと同じ診断書が入っていた。

 そこにはしっかり「インフルエンザA型」と書かれていて。
 鳥飼奏芽(あの医者)が僕の知らないところで()()()()()()()に触れたのかと思うと言いようのないモヤモヤが募って。

「院、長……センセ」
 僕の表情を見て思うところがあったんだろう。
 葵咲ちゃんが身体を起こそうとして……。僕は慌てて彼女を押しとどめる。

「なま、え……見て?」
 それでもそれだけは伝えないと、って感じで葵咲ちゃんが僕の手をギュッと握るんだ。

 僕は手にした診断書にもう一度視線を落とした。
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