僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「けど、――僕はやっぱり子供の頃から呼ばれ慣れてる〝理人(りひと)〟って呼び方をされる方がいい」


 そのままギュッと抱きしめられて、「ね、葵咲(きさき)()()()もそう思うよね?」と(ささや)く理人に、キュンと下腹部ごと(うず)かされて。
 理人には絶対に敵いっこないと葵咲は思った。



「葵咲、キミとご馳走と、どちらから先に食べたらいい?」
 

 けれどそんなちっぽけな不満も、理人に軽く名前を呼ばれただけで、葵咲の中から(とろ)かされて霧散してしまうのだ。


「理人の……好きな方で」

 本当は期待しているのはどちらかなんて決まっているくせに、決定権を理人に(ゆだ)ねるみたいに彼の顔をじっと見上げて葵咲がそう言った瞬間、彼女の耳には確かに聞こえた。


「ホント、葵咲ちゃんには敵わないな」

 吐息に乗せた、理人の困ったような熱を(はら)んだ(つぶや)きが――。


       END(2020/12/24)
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