僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

本文

 葵咲(きさき)ちゃんが毎週楽しみにしているドラマがある。

 僕はさして興味はないのだけれど、ドラマに一喜一憂する葵咲ちゃんを見たくて一緒に観ている感じ。

 その中で、まさかまさかの展開。

 ヒロインの恋人の男が死んじゃった!

 当然葵咲ちゃんは()()()()と涙を落としてさめざめと泣いて。

 それを見ている僕もキュッと胸が苦しくなった。

 ――誰だよ、こんなクソみたいな脚本書いたやつ!


 誰よりも大好きで、何よりも大事で、いつも笑顔で居て欲しい葵咲ちゃんを泣かせるなんて、例え絵空事でだって許せない。


 僕は心の中でそのドラマの作り手達を口汚く(ののし)った。

 作品自体はしつこすぎるくらいに濃厚な恋愛ものだったけれど、そんなの無視してファンタジージャンルに放り込んで、死んだ恋人を生き返らせてやりたい!

 葵咲ちゃんのために!



 頭の中では馬鹿なことを考えている僕だったけれど、顔には微塵も出さずに葵咲ちゃんの顔を覗き込む。

「葵咲、大丈夫?」

 そっと葵咲ちゃんを(いたわ)るように、ひとり静かに泣き続ける彼女の背中に腕を回したら、葵咲ちゃんが無言でギュッとしがみついてきた。

 こんな反応、基本ツンな葵咲ちゃんには珍しい。


 ホント、なんて事してくれるんだよ、クソドラマめ!
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