僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「……うん、そう……だね」

 葵咲(きさき)は理人に自分自身の愛を込めたくて、あの花の植え付けからずっと、彼に手を出されないよう気を張ってきた。

 でも、理人はそれを〝一緒に〟したいと言う。


 言われてみれば、そのほうが何だか数倍〝愛〟に満ち溢れた暖かな花が咲き誇りそうな気がして、葵咲は目から(うろこ)が落ちる思いだった。


 それに――。


「葵咲、大好きだよ、愛してる」

 やっぱり花を介した間接的な愛情表現より、お互いの温もりを肌で感じられるやり方の方が、胸にグッと迫ってくる。


「……ね、理人(りひと)、お願い――」

 もう1回ギュッてして?

 皆まで言わなくても、葵咲のことをよく知る理人は、葵咲がほんの少し気持ちを込めて見上げただけで、恋人を抱く腕にそっと力を込めて抱き締めてくれる。


「理人、私も貴方が大……き。愛……てる」
 
 恥ずかしくて途切れ途切れになってしまった「大好き」と言う言葉も「愛してる」と言う言葉も……きっと理人は察してくれたと思う。


 でも。

 コスモスの花が綺麗に咲いたなら、今恥ずかしくて言えなかった言葉を、花の陰に隠れて声に出してちゃんと伝えられるかな。


 葵咲は理人の腕の中で、そんなことを思う。


 (つぼみ)が開花するころにはきっと、と――。



    END(2021/05/12-5/13)
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