僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

本文

「ね、葵咲(きさき)、今日はハグの日なんだって。知ってた?」

 葵咲ちゃんがお風呂に入っている間、見るとはなしにぼんやりとテレビを観ていたら、コメンテーターがそんなことを言っていた。


 そんな素敵な日。口実にしない手はないよね?


 僕はお風呂から上がってきた葵咲ちゃんを、背後からギュッと抱きしめて腕の中に収めるなり、そう耳元でささやいた。

「もぉ、理人(りひと)っ。私っお風呂から上がったばかり、だよっ?」

 だから暑いのだと言外に含ませて抗議する葵咲ちゃんに、「うん、汗かいてるね」と答えながらも僕はお構いなしだ。

 葵咲ちゃんを腕の中に閉じ込めたまま、リビングのテーブルに置いてある扇風機のリモコンを手に取ると、スイッチを入れる。

 エアコンの程良く効いた室内。
 扇風機が送り出してくる風も、ひんやりと冷たくて心地よい。


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