僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
***

「ただいま」

 玄関扉の鍵が開錠された音を耳敏(みみざと)く聞きつけて、愛猫セレがニャニャーン!と言う声とともに黒く艶やかなしっぽをピィ〜ンと立てて、小走りに玄関へ向かう。

 しっぽを上げたことで丸見えになった、セレの可愛らしいお尻の穴を目の端に収めながら、葵咲(きさき)はソワソワと鍋の火を止めた。


「セレぇ〜。お前は今日もお出迎え早いなぁ」

 理人(りひと)の声に混ざって、チリンチリンとセレが首輪につけた鈴の()が聞こえてくるのは、理人が愛猫の喉を掻いてやっているんだろう。

 本当は自分もセレに負けないぐらい素早く玄関先に走って行って、大好きな理人を出迎えたいくせに、葵咲はそういうことが出来ない女の子だ。
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