僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

パパとママ

「ただいまぁ〜」

 大学のお友達と約束があって、半日ばかり家をあけて帰ってきてみると、拗ねているのかな。
 理人(りひと)が出迎えてくれないの。

 行く間際まで散々「帰るのは何時?」とか「メンバーに男はいない?」とか鬱陶しいくらいにあれこれ聞いてきていたのに。
 てっきり玄関先で仁王立ちしてるかも?とか覚悟を決めていただけに何だか拍子抜けしてしまう。

 それに……いつもなら私の方が帰りが遅かったりすると、玄関で「葵咲(きさき)お帰り」ってまるで忠犬みたいに両手を広げてくれるのに、それもないとなると何だか寂しくて。
 困ったな。怒ってるのかな。

 そう思うのと同時に、家中に漂うとてもいい匂いも気になって。

 理人(りひと)、もしかして夕飯の支度をしてくれたのかな?

 寂しがる理人を置き去りにして遊びに行ってしまった後ろめたさも後押しして、申し訳ない気持ちが膨らんでくる。

 心の中ではちゃんと分かっているの。
 一緒に暮らすうちに段々束縛が強くなる理人には、こういうのにもちゃんと慣れてもらわないと、普通の生活ができなくなりそうで困るって。

 でも……一緒にいるうちに、私ってばどうも理人のペースに巻き込まれてしまっているみたい。
 彼に束縛されることを心地いいとすら思ってしまってる。
 
< 290 / 332 >

この作品をシェア

pagetop