僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
理人(りひと)、ごめんね」
 無意識に謝りながらリビングに足を踏み入れると、むわりとした熱気に包まれて、おや?と思う。

 エアコンは?

 季節は8月。
 夏真っ盛り。
 いくら夕刻になったからといって、窓を開けたくらいじゃ、涼しくはならない。

 そんなことを思っていたら足元にニャーン、と愛猫のセレがすり寄ってきて、抱っこをせがんだ。

「ごめんね、セレ。先に手洗いを済ませてくるから待ってて。――それにしても……暑いね」

 言いながらエアコンのリモコンを本体に向けてスイッチを押してみたけれど、反応なし。

 あれ?

「エアコン、どうしちゃったんだろ……」

 まさか壊れたのかな?
 私が出かけるときにはちゃんと付いてたはずなんだけど。

 葵咲の問いかけにセレがニャーンと答える。
 猫語が分かったら、もしかしたら現状説明をしてくれていたのかもしれない。

 ほんの少し前までは小さな子猫だったセレも、今では立派な成猫だ。
 先月去勢手術をして、男の子としての機能こそ失われてしまったけれど、身体つきはやっぱりガッチリしていて雄猫だなって思わされる。
 でも、性格は見ての通りの甘えん坊。

 まるで誰かさんみたいだなって思って、思わず笑みが漏れる。

 それにしてもその理人(誰かさん)はどこに行ってしまったんだろう?
< 291 / 332 >

この作品をシェア

pagetop