僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 小1のときに彼と出会ってから十数年。
 どんな形であれ、理人(りひと)から拒絶されたことのない私はただただ戸惑った。

 そういえば私、理人を思いっきり避けていた時期がある。自分はそんなことをしたことがあるくせに勝手だけど、これ、すごく悲しい……。

「理人……私のこと、嫌いに……なっちゃったの?」

 たった数時間で、そんなことありっこないと思っていても、こんな風にされたら悪い方に考えちゃうよ。
 にわかに悲しくなって、つぶやくようにそう問いかけたら「ばっ! バカ! そんなわけないだろ!」って全否定されて、ますます混乱する。

「じゃあ何なの? さっきから。私が1人でお出かけしたのがそんなに不満だった?」

 言ったら、感情が(たかぶ)り過ぎて、涙がポロポロとこぼれ落ちる。
 さっきからずっと私の足元にまとわりついていたセレが、私の異変に怯えたようにトトト……と理人の方へ走り去る。

 それを「()()のところへ来たの?」ってつぶやく理人に、絶対さっきの聞かれた!って思った。

 涙声で「理人のバカ」って言ったら、理人が慌てたように身じろいだのが分かった。
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