僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

日帰りですか?

 大学図書館協会主催の研修会に行って来いと、夏ヶ丘大学図書館長を務める理人(りひと)学園長(うえ)からお達しがあったのは、今日の午後のことだった。

 行けば他所の大学がどのように創意工夫をして大学図書館を運営しているのか?などとても参考になることも多い研修会だ。

 学校図書館司書というのは、とかく自館内だけの業務に追われがちな仕事だからこそ、こういう外部からの刺激というのは時として大切になる。

 理人の勤め先である夏ヶ丘大学が所属している団体はそれほど盛んではないけれど、例えば地域の小中学校の図書館部会などは、自治体の主催で年に6回程度そういう研修が行われると聞いたこともあるくらいだ。

 それほどまでに、外からの刺激というのは大事だと言うのは分かってはいるのだけれど――。


「日帰り……ですか?」

 資料を渡されてチラリと視線を落としたら、会場が結構遠方な上、()()()()()()()開催されると書かれているのが目に入ってきた理人だ。

 そこを敢えて見ないようにして、一縷(いちる)の望みを込めてそう聞けば、「まさか。交通費などを鑑みても一泊二日ですね」とにべもない返事。

 もちろん宿代や交通費などは大学持ちとのことだけれど、理人にとって重要なのはそんなことではない。

 当然のように平日指定のその研修会に、理人は大好きな葵咲(きさき)を連れて行けないことを思って、ひとり盛大な溜め息を落とした。
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