僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 どうやら彼、自分の奥さんに見とれてしまっていたらしい。

「あ、ええ、もちろん。日織(ひおり)さんと丸山さんのお2人でどうぞ。僕と池本さんは酒の(さかな)があれば大丈夫ですので。――ご飯もの、足りないようでしたら遠慮なく追加で頼まれてください」
 
 言いながら、自然な流れのように横へ座るかぐや姫の頭をそっと撫でる修太郎(しゅうたろう)氏を見て、僕は瞳を細めた。

 なんだよ今の。滅茶苦茶うらやましいんだけど。

 まぁ、分からなくはないさ。
 好きな子って何しても可愛く見えるもんだからね。

 僕だって葵咲(きさき)ちゃんに「食べても良かった?」って上目遣いでお(うかが)いを立てるようにソワソワ聞かれたりしたら、ノックアウトだよ。

 っていうより、「僕もキミを食べていい?」って即座に聞き返したくなる案件だ。

 そこまで考えて「あ」と思う。
 修太郎氏も絶対あれだな。早くお開きにして、彼女と2人きりになりたいとか思ってるはずだ。

「修太郎さんっ、みっ、みなさんの前で恥ずかしいのですっ」

 無意識に撫でててしまったんだろう。

「ああ、ごめんなさい。あんまり貴女が可愛かったものですからつい……」

 頬を染めたかぐや姫にそう抗議されて、自分の手を見つめて苦笑している修太郎氏を見て、僕は物凄く共感を覚える。


 そこでふと自分の横に座る葵咲ちゃんを見たら、彼女も僕の方を見つめていて。

(ね、葵咲ちゃん。もしかして今のふたりのやり取り、うらやましいとか思ってくれてる?)

「葵咲……」

 そんな思いを交錯させながら呼びかけたら、慌てたようにふいっと視線をそらされてしまった。

 僕はそれだけで胸がギュッと苦しくなる。

 葵咲ちゃん。
 僕は今すぐにでもそこにあるキミの小さな手を取って、ホテルへ連れ戻してしまいたいよ。

 キミは、違うの?
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