名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

 多くを語らなくても 、大切にされている事が腕の温もりから伝わってきた。
「ごめんなさい」
 先にこの言葉が出た。
「来月、美優を連れて園原の実家に行く事になりました。いとこの紗月も一緒に行ってもらいます」

 朝倉先生は「そう」と言って、私を抱いている方の手に力が籠った。

「ごめんなさい」

「夏希さんが、謝ることはないよ」

「でも、先日忠告してもらったのに結局、園原の実家に行く事を決めてしまって、ごめんなさい」

「美優ちゃんにとっては、おじいちゃんおばあちゃんになるんだから仕方がないよ」

 朝倉先生は言ってくれたけれど、自分がもし反対の立場だったら気が気でないだろう。
 反対の腕に抱かれてご機嫌な美優を見ていると園原の両親に会わせるのは正しい事に思えるし、視線を上げて朝倉先生を見ると間違っている事に思えた。
 
「美優ちゃんの幸せが一番だから夏希さんは間違っていないよ。私が、夏希さんと美優ちゃんを独り占めにしたいだけだから」
と朝倉先生は、いたずらっぽく笑った。
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