名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 ワゴンのタクシーに乗り込む。長距離のため運転手2名の交代制。
 なんでも病院の紹介で手配が出来たそうで、将嗣と美優と私は3人で後ろの席にVIP扱いだね。と笑った。
 久しぶりに美優を膝の上に乗せて、自由になった右手で支え抱き留める。
 ほんの1週間ほどの間に少し重たくなった気がする。
 美優ももうすぐ1歳になるんだなぁ。と、成長を実感した。
 
 私と美優の様子を目を細めて見ていた将嗣が、いたずらっ子のような表情をして、ゴソゴソとシートの脇から袋を取り出す。
 袋の中身は、一昨日、病室で言っていたお菓子。
 薄皮饅頭、それにママドールとゆべしまで出てきた。

「うわー! ありがとう」

「お土産、事故で買うことも出来なかったからな。とんだ旅行になってごめんな」

「事故は、将嗣のせいじゃないよ」

「でも……。ウチの親も酷い事を言って……」

「それも将嗣のせいじゃないよ。私は、親を早く亡くしてしまったから親のための苦労は少ないけど、自分の親でもどうしようもない事があるのはわかるよ」

 将嗣は、眩しそうに目を細めてクシャと微笑んだ。

「夏希、ありがとう」

 将嗣の切ない瞳を見ると胸が詰まる。
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