名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
驚き過ぎて何から考えたらいいのか、頭の中は真っ白だ。
 朝倉先生と私は、二人で暫くフォトフレームとお互いを交互に見ながら確認作業のように頷いていた。

 そして、私は、突然床に突っ伏して、頭を下げた。ザ・土下座の姿勢である。

「その節は、大変お世話になりました。そして、ご迷惑をお掛け致しました」

「谷野さん、やめて下さい。たまたま通り掛かっただけなんですから」

 恩人を目の前にして引くわけにはいかない。

「いえ、こうして私たち親子が無事にいられるのは、あの時、声を掛けて下さった朝倉先生のおかげです」

「いや、貴重な体験をさせてもらいました。感動しましたよ。命が生まれ落ちる瞬間に立ち会えるなんて、あの時に産まれた子が、こんなに大きくなったんだね。また、感動だ」

と、温かい瞳でベッドの上に眠る娘を見つめた後、私を床から起こしながら言った。

「谷野さん、頑張ったんだね」
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