名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
商品を選んでいると、高級黒毛和牛薄切りが勝手に私の買い物カゴの中にいる。

 あれ? 入れたつもりは無いのに間違え入れちゃったのかな? 
 なんて事は無い、犯人は将嗣、お前だ!

 キッと睨んで棚に戻そうとすると、横から声がする。

「俺が買うんだから入れて置いて、今夜は黒毛和牛のスキヤキ♪」

 くそ~。母子家庭の切りつめた財政をなめんなよ。そんな高級食材なんて、2年は食べていないわ。

「俺ん家、この上だけど食べに来る?」
 そう言って、人の事をチラ見する。

 そうだ、コイツこの上のタワマンに住んでいたんだ。でも、家に上がり込むのってどうなの? 私が考えあぐねていると声が掛かる。

「もらったパーラーのチーズケーキがあったなぁ」

 うっ、濃厚な味わい、1本3500円もする高級チーズケーキ。あれ、大好きなんだよね。

 コイツ、さすがに人の弱い所をついてくるなぁ。「夏希が来るなら黒毛和牛を追加しようかな?」
 と、返事待ちされる。

 これは、もう、負けました。

「ご馳走になります」

 私は、負けた。
 完全な敗北。
 いや、これは話をするチャンスなのだ。
 決して、自分の食い意地汚さに負けたのではない。
 と、言う事にしておこう。
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