名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 将嗣の腕は、私たちを包んだまま解かれない。
 すると、私の首元にポタリと涙が落ちた。

「ちょっと、どうしたの?」
 
「今更、後悔しても遅いのに夏希と別れた事で、失ってしまった夏希と美優との時間が悔やまれる。できることなら、美優が産まれる時も一緒に感動を分かち合いたかった。夏希も一人で不安だっただろう」
 
 将嗣の言葉を聞いて、朝倉翔也先生の事を思いだした。
 陣痛で苦しい時に支えてくれた、私のヒーロー。

 偶然が重なり、朝倉先生に付き添ってもらい出産、それに大きな仕事をもらって、ステップアップした。私は、不思議な縁と運に恵まれている。

「不安がなかったと言ったら嘘になるけど、私は大丈夫」

「夏希、ごめんな。これからは、俺も協力する。美優ちゃんの父親になれるように頑張るから、もう一度やり直せないか?」

 後ろから抱かれた状態で泣いている元カレに何を言えばいいんだろう。
 もう一度やり直したいって言われても辛い思いでリセットしたのに、そんな気持ちになれないよ。
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