御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 そして、美味しそうに料理を食べる隆の顔をばれないように、そっと見つめる。カーテンのブルーが隆の肌の白さを際立たせていた。
 綺麗…。今自分がいる空間が、まるで夢のようで現実味がない。三日前までは、お給料日までなんとかしないと、と空っぽの冷蔵庫の前で唸っていたのに。
 まるで、嘘みたい。
「…ちゃん。夏美ちゃん?」
 はっとして、隆と目を合わせる。自分の思考にはまってしまって隆が呼んだのに気づかなかったようだ。
「ご、ごめんなさい。ぼうっとしてしまって」
「酔っちゃった?シャンパンだからかな…でも、そんな夏美ちゃんをやっぱり一人にはさせられないな」
「一人って?」
「似顔絵のこと。男性客が何人かいたでしょ。あいつら、絶対夏美ちゃんを狙ってたよ」
「そんなこと…」
「連絡先、きかれたんじゃない?」
 確かに、ライン交換しませんか、と言ってきた男性客がいた。とっさに言葉に詰まっていたら、隆が「そういうのやってないんで」とひとこと、言ってくれて事なきを得た。
「たまたま、似顔絵描きが珍しかったんじゃないですか」
 男性客のことをあまり深く夏美は考えていなかった。お客様はお客様だと思ってしまう。
「だから。そういう無防備なところをついてくる男だっているんだから。用心しないと」
 拗ねた子供のような言いっぷりに、夏美は少し笑ってしまう。
 こんな風に言ってくれるってことは…一応、女性として見てもらえてるのかな…。
 そう思うとくすぐったくて、嬉しくて口元がにやけてしまった。
「何。思い出し笑いとかして。今、男のこと考えてなかった?誰?特別な人?」
 いっきに詰められて夏美はうろたえた。
「い、いませんよ。そんな人」
「本当かなあ。女の人ってわからないから…」
 夏美はそんな隆の言いっぷりに、おや、と思った。
「隆さんが女心がわからないなんて、そんな事あるんですか。今日もこないだも、あんなに女性の心をつかんで行列に並ばせたのに」
「見た目を着飾ってる女性は簡単なんだ。自分を認めてほしいってわかりやすく思ってるから。でも、夏美ちゃんみたいに自分に無関心なタイプって本当に心を動かさないとダメだよね。僕にはわからないようなツボがあるんだろうな。白状しろ。どんなタイプに弱いの?」
「どんなって…そうですねえ…」
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