御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「だって、今日はお天気もいいし、公園に来てみたかったのよ。そしたら出口が分からなくなっちゃって…」
「もう。僕がいたからよかったけど、気をつけてよ」
「はいはい。あ、あんた田口の車で来たの?」
「うん。すぐそこに車止めてある。ここから見えるでしょ」
 噴水の向こうの、公園の柵の近くに車の一部が見えた。 
 あれって高級車なんじゃ…?
 車種に詳しくない夏美は確信が持てなかったけれど、とにかくお孫さんが来てくれてほっとしていた。ご婦人が言った。
「あ、あれね。わかった。もうそこなら行けるわ。隆、このお嬢さんにご馳走してあげて」
「え?」
 急に話しをふられて、夏美は固まった。
「ああ、すみません。祖母があなたにご迷惑をかけたんですね」
 隆と呼ばれた男性は夏美に向き直って頭を下げた。
「いえ、あの。スマホをかしただけですから」
「とんでもない。自分のおなかがすいているのに、私に食べさせてくれたのよ。優しいお嬢さんよ。ちゃんとおもてなし、してちょうだいね」
 そう言って、ご婦人は噴水の向こうへとすたすたと歩いて行く。
「あの…」
 隆が夏美を見つめて口を開いた。
「あの、ほんとに何もしてないんで、お気になさらないでください!」
 懸命に夏美は言い募ったが、隆はにっこりと笑った。
「牡蠣の美味しいお店があるんだけど、行きませんか?」

 ちょうど、夕方の五時を過ぎていて、オープンしたばかりのそのバルはすいていた。薄暗いオレンジ色の照明の中、隆に促されて夏身は席についた。テーブルには小ぶりのキャンドルが置いてあってほのかな明かりを灯している。
 いい雰囲気…好きな感じのお店だなあ…
 急に、隆に連れて来られる形になって緊張していたけれど、お店の雰囲気で、少し気分が和らいだ。
「何にします?あ、お酒は?白のいいのがあるんだけど、飲めますか?」
「は、はい」
 どうすれば失礼じゃないだろうと身構えてしまう。
「じゃあ、料理は…あ、そうか。牡蠣づくしがいいですよね?」
 夏美はぽっと頬を赤らめた。そうなのだ。夏美は本当にご婦人にスマホをかしただけなので、おもてなしを断ろうと思っていたのだ。
 しかし。
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