御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
プロポーズ
 そう言って、隆は、ジャケットのポケットから何かを取り出した。
 テーブルに置く。それは指輪のケースだった。
「夏美ちゃんの仕事が忙しくなって逢えなくなるなんて、耐えられないんだ。だから、一緒に暮らしてほしい。僕と、結婚してください」
 隆はケースの蓋を開けた。そこにはダイヤが燦然と輝く美しい指輪があった。
「けっこん…?」
 夏美は、びっくりして言葉を反芻した。結婚。私が。隆さんと。
「これまでもさ、僕と一緒に暮らさない、って誘ったこと、あったじゃない」
 隆が続ける。そうなのだ。夏美はバイトと絵本、イラストの制作に追われて倒れたことが何度かあった。その度に、フォローするから、一緒に暮らそうよ、と誘われていたのだ。しかし、夏美は経済的にも安定しておらず、何もかも隆に甘えてしまいそうで、その申し出は断っていた。自分ひとり、食べられるようになるまでは、隆とは一緒に暮らさないと心に決めていたのだ。
「夏美ちゃんが経済的自立をしてから一緒に暮らそうってことだったけど。もうそのタイミングが来てると思うんだ。それにね。夏美ちゃんはこれからイラストレーターとしての正念場を迎えるんだから、バイトと掛け持ちも難しくなるよ。僕の部屋で、精一杯、イラストの仕事に打ち込む。それが本筋じゃないかな」
 夏美は、きゅっと唇をかんだ。
 隆は、自分が寂しかったり、甘えたかったりして、一緒に暮らそうと言ってるんじゃない。夏美の仕事のことを考えてのプロポーズなのだ。
 私の仕事のことを考えて…隆さんが結婚を申し込んでくれた。
 相手が何を一番に考えるか知っている人と、結婚するのが一番いい。
 そう、何かの本で読んだことを思い出していた。私のことも、私の仕事のことも大事にしてくれる、そんな人、隆さんしか、いない。
「隆さん…」
 夏美は、こみあげてくるものを抑えながら、隆を見つめた。
「よろしく…お願い、します」
 隆は顔をくしゃっとして笑った。
「よかった。また断られるんじゃないかってひやひやしたよ。夏美ちゃん、手をかして」
 夏美がそっと手を差し出すと、隆は、手をとり、薬指に指輪をはめた。
「夏美ちゃん、絶対幸せにする、からね」
「私も、隆さんを、幸せにしたいです」
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