御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 とんとん拍子に話が決まってしまった。電話を切ると敏恵がきゃーきゃー喜んでいる。
「ありがとう、夏美さん!」
「いえ、あの、来週の木曜日って、トシさんは、仕事大丈夫なんですか?」
「大丈夫!こんな日のために有休ためてあるの。親戚の誰かを殺して忌引きにしてもらうわ。ねえ、夏美さん、このお礼するわ。何がいい?」
「いいですよ。私もイラスト漬けで息抜きしたかったし」
「ほんと?何か思いついたら何でも言ってね。あー嬉しい。何着ていこっかなー」
 すっかり上機嫌な敏恵を見ると、やれやれと思いつつもほほえましく感じてしまう。ひとしきり話が済むと、敏恵は木曜日に向けてエステに行かなきゃ、と帰ってしまった。
 夏美はそれから一時間くらいはイラストに向き合っていたのだが、隆が今日は、早く帰る、と言っていたのを思い出し、キッチンに立った。
 夏美はここ最近は、近所のスーパーに赴くようになっていた。囲まれるのが怖かったマスコミ陣も、ここのところほとんど出くわさない。最近は、清純派女優のNの熱愛発覚の方が大きく扱われているから、こっちまで手が回らないのだろう。ネットも見なくなって久しいが、敏恵の話だと落ち着きつつあるそうだ。
 こうやって日常を取り戻していくんだな、と思いながら料理を作った。
「このなすび、美味しいね」
 帰宅して早速テーブルについた隆がご飯茶碗片手に言った。今日の献立は、茄子の揚げびたしと、ポークソテー、ミモザサラダに冷奴だった。
「そう?よかった」
 夏美のスケジュールは、朝のうちに掃除と洗濯をすまし、朝食を作り隆を送り出す。それからイラストに取り掛かり、お昼ご飯で休憩、それからまたイラストをやり、夕方六時から晩御飯を作った。そうすると、残業のない時の隆が帰ってくる時間にちょうど間に合うのだった。
 バイトに行っていた時間をまるごとイラストに使えるので、今のところ締め切りにはそう追われずにはすんでいる。夕飯の片付けが終わると、隆とゆっくり過ごすようにしていた。
 今日は、夕飯の片付けが終わったので、隆にりんごを剥いてあげた。りんごの皿をリビングのローテーブルに置く。そこで、今日のミッションを思い出した。
「あのね、隆さん。ちょっとお話があってね」
「何、改まって」
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