御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
いつも二人で
 ふらふらになった夏美は、そのまま床に崩れ落ちた。ついさっきまで絵を描いていて、ほとんど完徹だった。しかも、この数日、まともに眠っていなかったので、激しい眠気に体が逆らえない。
 夏美ちゃん、大丈夫、という声が、うすれていく意識の中で聞こえた。

 再び夏美が目を覚ましたのは午後三時頃だった。起き上がると、隆がベッドサイドの椅子に腰掛け、コーヒーを飲んでいる。夏美はベッドから降りて隆をぽかぽかと殴った。言いたいことがありすぎて、言葉にならない。
「心配した、よっ…!」
 やっとのことで言葉を伝える。
「ごめん。宮崎のホテルで夏美ちゃんに電話しようとしてバスルームで転んだんだ。そしたら浴槽にスマホがポチャッて…」
「私みたい」
 夏美はスマホを洗濯機にかけてしまったことがある。二人の間での笑い話の一つだ。二人で笑って、やっとほっとして、夏美は敏恵と濱見崎先生のことを打明けた。
「ごめんなさい。こんなに後悔するなら、嘘なんて、つくんじゃなかった」
「うん…やっぱり、嘘はついてほしくない、かな」
 隆は今、笑ってくれているけれど、やっぱり怒っていたんだ、と夏美は背筋を伸ばした。
「いつか話そうと思ってたんだけど。僕、以前つきあっていた彼女に嘘をつかれたんだ」
 夏美は黙ってその先を促した。
「最初はね、慈善団体に寄付したいから隆君も、って言われて。そんなタイプの女性が周りにいなかったから、新鮮で感動したんだ。でも、それからも何度も…お母さんが倒れた、とか弟さんが留学するからとか…たくさん、お金を要求されたんだ。彼女はすごく嘘が上手くて、僕は全然疑わずにお金を渡してた。でも、ある日、IT会社の社長と結婚することになったから別れてって言われて…それでわかったんだ。これまでのことは全部嘘だったんだって。遅すぎるよね。…呆れた?」
 夏美は、何も言えず、隆の手をぎゅっと握った。
「それで…僕は、女性を見るとき、結構、慎重にはなった。自分から職業をなかなか明かさないようになったし…結婚するなら、お金のことをちゃんとしてる人にしようって決めてた」
「そしたら、すごく貧乏な女子に出会ってびっくりしたの?」
< 72 / 86 >

この作品をシェア

pagetop