すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?

本文

『――地方では、今日の夕方から夜半にかけて、大荒れの天気になると思われます。土砂災害や河川の氾濫(はんらん)に十分な警戒を……』

 ラジオから流れてきた気象予報士の声に、助手席の言凛(ことり)が小さく息を呑んだのが分かった。

 現在、自分たちの住む地域に、大型の()台風が接近中。
 進路(ルート)を見ると、ドンピシャでこの辺りを通過するみたいで、大学も早めに講義を切り上げ、明日も大事をとって午前中いっぱいは全講義臨時休講になっている。



 フロントガラスを濡らす雨も、風とともに徐々に激しさを増していた。

 悪天候になりそうだった今日、大学への行き帰り恋人の送迎を買って出た寛道(ひろみち)だったけれど、今の反応を見たらこのままアパートまで送り届けて「じゃあな」でいいのか戸惑うところだ。


「コト、台風苦手なのか?」

 ハンドルを握ったまま何の気無しに問えば、言凛が
「雨は平気。ただ、風が強かったりするのがちょっと……」
 と溜め息を落とす。

 聞けば、子供の頃に激しい風雨で庭木が倒れ、言凛の部屋の窓ガラスを直撃したことがあるのだそうだ。

「すぐお母さんたちが駆けつけてくれたけど、ベッドのすぐそばまで木の枝が入り込んでて……物凄く怖かったの」

 真夜中の出来事だったらしい。暗い中、眠っていていきなりそんなことがあれば、トラウマにもなりそうだな、と寛道は思う。


「今夜、お前ん()、泊まっても平気か?」

 気がつけば、思わずそんなことを口走っていた。
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