すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
 私は柳川(やながわ)を抱きしめた腕を緩めると、一生懸命背伸びをして手を伸ばすと、彼の頬にそっと触れた。

 本当は、いつも研究室で見ているつむじの辺りを優しく撫でてあげたい。

 頑張ったね、辛かったね、ってヨシヨシ出来たらって思うのに。

 身長差がありすぎて、目一杯手を伸ばしても柳川の頭の天辺(てっぺん)に、チビな私の手は届きっこなかったから。

 だからね、私、ほっぺで手を打ったの。


「今日はすっごく頑張ったね――」

 そこまで言って、私はちょっと考えて「……寛道(ひろみち)」って下の名前で柳川のことを呼んでみた。

 頑張ったのは、きっと柳川ではなく〝柳川()()〟という人間だから。

 柳川の想い人のあの女の子が、いつも柳川のことを親しげに「寛道」って呼んでいたのを知っていた私は、敢えてそちらを選んで彼を(ねぎら)ったの。


 と、途端柳川が、彼に触れていた私の手をギュッと掴むと、壁に縫い止めるように押さえ付けてきて。

「――きゃっ!」

 柳川が大きく部屋の中に踏み込んできたことで、彼が押さえていた扉が支えを失ってバタン……と私たちの背後、存外大きな音を立てて閉まる。

 私はその音に驚いて、ビクッと身体を震わせた。


 柳川の大きな手にギュッと握られて、頭上で壁に固定された手首がじんじんと痛む。
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