若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 おまけに死んだ父親の真相を知りたいのなら俺の恋人になれと言われ、恋人役まですることになってしまった。
 それも彼がクルーズで東京に戻るまでの女避けとしての期間限定の恋人だ。東京に戻ればきっと花嫁に望んでいる初恋の女性が待っているのだろう。あたしみたいな仕事が恋人、なんてつまらない女ははじめから求められるわけがないのだ。そう、これは仕事。取引条件として彼が与えてくれた特別任務でしかない。
 キリッとした表情で鏡を見つめていたマツリカだったが、背後からぬっと濡れた黒髪が登場して驚きの声をあげてしまう。

「ひぁっ!?」
「まつりいか、起きたのか?」
「カ、カナトさま! 服を、着てください!」
「見せたところで別に減るものでもないしいいだろ? けっきょく制服にしたのか? 俺が見繕ったドレスはお気に召さなかった?」
「へ? ドレス?」
「あのあと、貴女が入浴しているあいだにクローゼットにセットしておいたんだ。ワイキキ観光をするのにその制服だと味気ないぞ」
「味気ないって失礼デスネ……ぅわ!」
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