若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「俺が買いたくて買ったのだから文句を言われる筋合いはないな。ちなみに会社経費からは出してない。あくまで俺のポケットマネーだ」
「はあ」

 下船したらすべて貴女のものだぞと誇らしげに言われて思わずひきつった顔になってしまう。若き海運王と呼ばれるだけある驚きの金銭感覚だ。これ以上反発しても言いくるめられてしまうだけだと気づいたマツリカは、「クルーズのあいだだけですからね!」と渋々頷き、クローゼットのなかから一着のライトブルーのシンプルなノースリーブワンピースを選ぶ。日本にはまだ上陸していないヨーロッパのハイブランドのものだ。手触りからして上質で、さらりとしている。

「それに着替えたら、こっちに来てほしい。朝食を持ってきてもらう」
「あの、カナトさまも早く着替えた方がいいですよ」
「……ああ」

 自分がはだかのままでいたことに気づいたカナトは「そうだな」と笑いながら使用人控え室を抜け出していく。
 彼が扉を閉めたのを確認したマツリカは、もう一度着替え直さなくてはいけないのかと苦笑を浮かべながらも、どこか楽しそうにワンピースを鏡の前で身体に当てるのだった。
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